「大学と新商品を開発したい」「現場データを分析してほしい」と思っても、最初の連絡でどこまで説明すべきか迷います。情報を伏せすぎれば課題が伝わらず、詳しい図面や顧客データを送れば、守秘や利用条件を決める前に重要情報を外へ出すことになります。
熊取町には大学・研究機関が立地し、町は地域・大学等連携窓口を案内しています。ただし、近くに研究機関があることと、自社の相談が受け入れられることは同じではありません。研究分野、窓口、時期、費用、契約、設備、安全、研究倫理等の条件が合って初めて、連携の検討が進みます。
事業者のホームページが担うのは、研究内容を詳しく公開することではありません。自社の課題を非機密の範囲で整理し、適切な窓口が「話を聞くべき案件か」を判断できる入口を作ることです。この記事では、公開情報と守秘後の情報を分け、共同研究・実証の相談を前へ進めるWeb設計を解説します。
熊取町の「4大学等が立地」を連携実績に置き換えない
熊取町の地域・大学等連携窓口の案内は、町内に京都大学複合原子力科学研究所、大阪体育大学、大阪観光大学、関西医療大学の4つの大学等が立地すると紹介しています。町と各大学等は連携協力を進め、2026年度の事業予定や大学等の担当窓口も掲載しています。
地域の大きな特徴ですが、企業サイトに「町内4大学と連携できます」と書ける根拠ではありません。町が紹介する連携・協力事業には、行政事業、公開講座、住民向け事業、大学間交流等も含まれます。個別企業の共同研究メニューや相談受入れを一括して示すものではありません。
自社ページでは、事実を次のように分けます。
- 地域の事実:熊取町に4つの大学等が立地し、町と各機関の公式窓口がある
- 自社の希望:解決したい事業課題、想定する連携方法、希望時期がある
- 未確定事項:相談先、研究適合、費用、期間、契約、成果の扱いは協議前である
- 確定した実績:契約と掲載許可がある案件だけを、合意した名称・範囲で紹介する
ロゴ、建物写真、研究者名、学生写真を掲載すれば信頼が増すとは限りません。許可のない表示は提携を誤認させます。連携前は「大学等との共同研究を検討しています」と自社の方針を示し、特定機関の受入れや推薦を示す表現は使わないことが基本です。
研究テーマより先に「企業課題」を非機密で書く
大学の研究分野を並べても、自社が何に困り、何を変えたいかが分からなければ相談は始まりません。最初に作るのは研究テーマ一覧ではなく、一ページの「公開課題票」です。
公開課題票には、秘密を含まない範囲で次を記載します。
- 対象事業:製造、観光、健康、スポーツ、地域サービス等、課題が生じる業務
- 現状:誰が、どの工程で、何を手作業・既存手法で行っているか
- 困りごと:時間、品質、安全、需要予測、顧客体験等、改善したい判断
- 目標:研究そのものではなく、現場で確認したい変化
- 提供可能性:担当者、現場、設備、匿名化前提のデータ等、協議できる資源
- 希望段階:情報交換、技術相談、予備調査、PoC、共同研究のどこから始めたいか
- 時期:相談開始、社内判断、実証候補時期。確定していなければ未定と書く
「AIで効率化したい」だけでは、対象工程も成功条件も分かりません。「検品記録の入力に時間がかかり、担当者が判断する基準を整理したい」のように、まず業務上の課題へ戻します。使う技術は、適合確認や実証設計の段階で決めます。
反対に、製品図面、配合、ソースコード、未出願発明、顧客名、従業員の健康情報等は公開課題票へ載せません。相手が判断するために必要な情報と、自社の競争力や個人の権利に関わる情報を分けます。
ホームページは五つの「情報開示ゲート」を示す
共同研究の相談は、問い合わせ送信だけで成立するものではありません。Web上で、どの段階に何を確認するかを示します。
| 段階 | Web・社内で確認すること | まだ約束しないこと |
|---|---|---|
| 公開課題票 | 非機密の課題、目的、担当窓口 | 研究受入れ、秘密保持 |
| 適合確認 | 相談先、研究領域、受入条件 | 契約、施設・学生の利用 |
| 守秘後の開示 | 開示者、目的、資料、期間、管理 | 全情報の自由利用、成果帰属 |
| 実証設計 | 仮説、指標、役割、費用、安全、中止条件 | 本番導入、成果保証 |
| 成果公開・事業化 | 発表、特許、利用、返還・消去、次段階 | 無期限の独占、許可のない広報 |

この五段階を分けると、初回フォームの注意書きも明確になります。「このフォームには秘密情報、未出願発明、個人データを入力・添付しないでください」「送信は相談受付であり、秘密保持や共同研究の成立を意味しません」と示します。
一方で、何も書くなという画面では相談が進みません。公開課題票の項目を選択式と短文で受け取り、担当者が適切な窓口と次の手順を案内できるようにします。
初回フォームに技術資料を添付させない
問い合わせフォームへPDFや表計算ファイルを添付できると便利ですが、初回から自由添付を許すと、誰が閲覧するか決まる前に重要情報が届きます。まずは添付なしの非機密フォームにし、必要な案件だけ、担当者と開示方法を決めてから受け取る運用が安全です。
初回フォームには次の項目があれば十分です。
- 会社・団体名、担当部署、連絡先
- 相談区分:情報交換、技術相談、共同研究、実証、学生連携、その他
- 非機密の課題概要
- 対象工程・利用場面
- 希望時期と社内の検討段階
- 公開できる自社ページや既公開資料のURL
- 秘密情報・個人データを含めていないことの確認
自動返信では、送信内容を全文転記しない方がよい場合があります。受付番号、受付日時、次の連絡目安、緊急連絡には使えないことだけを返し、社内の受信権限と保管期間を決めます。複数部署へ一斉転送するのではなく、一次受付者が相談区分を確認してから必要な担当者へ渡します。
「提供できる資源」は確定・条件付き・不可に分ける
企業が大学等へ提供するのは資金だけではありません。現場、設備、試料、担当者の知見、既存データ、検証場所、顧客接点等が研究・実証に必要になることがあります。ただし、「提供できます」と公開すると、法令、安全、契約、顧客同意を確認せず使えるように見えます。
資源は三段階で整理します。
- 公開可能:会社概要、既公開製品情報、公開済み統計、一般的な業務フロー
- 条件付き:現場見学、設備利用、試料、内部データ、従業員・利用者の協力
- 初回提供不可:個人データ、顧客秘密、未出願発明、安全保障・規制対象情報、第三者から預かった情報
条件付き資源には、誰の承認が必要か、匿名化や契約が必要か、利用場所、持ち出し、保管、返却・廃棄を協議することを添えます。Webページは「提供の可能性」を示す入口であり、利用許可書の代わりではありません。
健康・行動・顧客・従業員データ等を研究へ使う場合は、個人情報保護委員会のガイドラインを踏まえ、利用目的、提供の法的根拠、役割、安全管理、本人への対応等を案件ごとに確認します。「大学の研究だから自由に共有できる」とは扱いません。
NDAの前後で資料とアクセス権を切り替える
産学官連携による共同研究強化のためのガイドラインは、共同研究契約の前段階を含めた秘密情報管理の重要性を示しています。大切なのは、NDAという名称の書類を置くことだけではなく、何を、誰が、何の目的で、いつまで扱うかを運用できることです。
開示前に、少なくとも次を整理します。
- 自社の既存技術・データと、共同研究で新しく生まれる成果を区別する
- 開示する資料名、版、作成者、秘密区分、提供日を台帳へ残す
- 大学側、企業側、学生、外部委託先等、閲覧する可能性がある人を確認する
- クラウド、メール、持ち運び媒体、試料等、保管・受渡し方法を決める
- 契約終了・中止時の返還、消去、廃棄、アクセス権削除を決める
NDA締結前は、公開課題票をもとに適合を確認します。締結後も、必要な情報だけを段階的に開示します。NDAがあるから全資料を送る、という運用にしません。契約内容は案件によって異なるため、大学・研究機関の担当部署、自社の法務・知財担当、必要に応じて専門家へ確認します。
PoCは「できるか」だけでなく次の判断を設計する
PoCや実証を始める際、精度や効果だけを成功条件にすると、終わった後に導入判断ができません。実証ページや社内ブリーフには、次の判断材料をまとめます。
| 確認項目 | 決める内容 |
|---|---|
| 仮説 | 何を変えると、どの現場判断が改善するか |
| 指標 | 技術指標、業務指標、安全・品質の下限 |
| 対象範囲 | 場所、期間、設備、データ、参加者 |
| 役割 | 課題定義、研究、現場調整、データ管理、意思決定 |
| 費用・資源 | 人件、設備、試料、交通、保険、追加作業 |
| 中止条件 | 安全、倫理、データ不足、設備停止、期限超過 |
| 成果物 | 報告、試作品、データ、モデル、知見、未達理由 |
| 次の判断 | 再検証、共同研究、本番導入、終了 |
特許庁のオープンイノベーションポータルは、秘密保持、PoC、共同研究開発、利用等を分けたモデル契約書と解説を公開しています。これは契約ひな形をそのまま貼るためではなく、段階ごとに論点が変わることを確認する材料です。
AIを使う実証では、学習・評価に使うデータ、既存モデル、追加学習したモデル、出力、ログ、再利用、第三者サービスの条件を分けます。「AIの成果は共同所有」等の一文だけで済ませず、実際の構成と双方の事業利用を確認します。

打ち合わせでは、研究テーマだけでなく、企業課題、提供できる資源、評価指標、次の意思決定を同じ資料で照合します。実在の大学・研究者・事業者との会議や成果を表す写真ではなく、説明用のイメージとして扱います。
成果公開は開始前と終了前の二回確認する
大学・研究機関には研究成果を発表する役割があり、企業には出願前情報、ノウハウ、顧客情報、製品計画等を守る必要があります。どちらか一方を優先すると決めつけず、契約前に公開の考え方を確認します。
経済産業省の共同研究に伴う技術流出への対策は、非公開範囲・期間、成果公開時の事前通知・承諾、研究終了前の成果取扱確認等を整理しています。
開始前には、論文、学会、プレスリリース、Web実績、採用広報、展示会、特許出願等の予定と確認手順を決めます。終了前には、実際に生まれた成果を見て、発明者・寄与、帰属、利用範囲、出願、公開時期、秘密情報の削除、データ・試料の返還、次段階を確認します。
自社サイトへ実績を掲載する場合も、相手方の正式名称、ロゴ、写真、研究内容、担当者名、成果数値を個別に確認します。「共同研究中」「実証成功」と先に公開しません。非公開案件は、無理に実績化せず、公開可能な範囲だけを匿名・抽象化してよいか当事者間で判断します。
窓口を一つにし、社内の判断者を裏側で分ける
問い合わせ先を部署ごとに並べると、相談者はどこへ送るべきか迷います。表側は「産学連携・共同研究の相談」窓口を一つにし、社内で振り分けます。
社内では、次の役割を分けます。
- 一次受付:非機密であること、連絡先、相談区分を確認する
- 事業責任者:課題の優先度、予算、現場提供、次の判断を持つ
- 技術担当:既存技術、データ、試料、設備、評価方法を整理する
- 法務・知財:守秘、背景技術、成果、公開、第三者権利を確認する
- 情報管理・安全・倫理担当:データ、アクセス、現場、安全、個人への影響を確認する
- 広報・Web担当:許可された名称・範囲だけを公開し、終了時に更新する
小規模事業者で一人が複数役を担う場合も、判断項目は省略しません。分からない知財・契約論点は、INPITの知財相談案内等の公的窓口や専門家を利用します。ホームページ制作会社は、相談導線と情報整理を支援できますが、研究受入れ、契約、知財、倫理、安全の承認者にはなりません。
30日で共同研究・実証の入口を整える
最初から研究シーズ集や大規模な実績データベースを作る必要はありません。相談者と自社担当者が、安全に次の会話へ進める一ページから始めます。
- 1週目:自社の事業課題を三件以内に絞り、非機密で説明できる公開課題票を作る
- 2週目:提供資源を公開可能・条件付き・初回不可に分け、社内の承認者を決める
- 3週目:添付なしの相談フォーム、自動返信、受付台帳、閲覧権限、保管期間を整える
- 4週目:架空案件で、適合確認、守秘後開示、実証設計、終了・成果公開まで机上確認する
公開前には、町や各大学等の公式窓口が現在も正しいか、自社が連携実績を誤認させていないか、スマートフォンで注意書きとフォームが読めるかを確認します。フォーム送信後に「共同研究が申し込まれました」と表示せず、「相談を受け付けました。内容を確認し、次の連絡方法をご案内します」と段階を正確に伝えます。
問い合わせが来なければ、機関名や「AI」を増やす前に、課題が具体的か、連携目的が読めるか、提供資源と社内判断の準備があるかを見直します。相談数だけでなく、非機密のまま適切な担当者へつながった割合、次の判断までの時間、差し戻し理由を改善指標にします。
まとめ|大学名を並べるより、安全に課題を渡せる入口を作る
熊取町で産学連携を考える事業者のホームページは、町内4大学等の名称や研究分野を並べるページではありません。企業課題を非機密で説明し、適切な窓口が適合を確認し、守秘後に必要情報を開示し、実証と成果公開を別々に合意できる入口が必要です。
特に、問い合わせ送信、NDA、PoC、共同研究、本番利用、成果公開は一つの同意ではありません。段階ごとに、課題、情報、役割、費用、安全、知財、公開、終了条件を確認すれば、秘密を出しすぎず、相手にも判断材料を渡せます。
大学・研究機関との連携を検討しているものの、自社課題、公開できる情報、相談フォーム、実証ページをどう整理すべきか迷う場合は、熊取町の産学連携・事業サイト制作を相談するから、現状の課題と検討段階を非機密の範囲でお知らせください。相談前の課題票と情報開示の境界から、次の確認へ進める企業サイトを設計します。