ECサイト制作の要件整理では、何を誰に売るか、注文後に誰がどう動くか、どの状態なら完成と判断できるかを先に決めます。欲しい機能を並べるだけでは、制作会社へ依頼する作業と、自社に残る仕事が見えません。
最初から専門的な仕様書を作る必要はありません。この記事では、見積もりを依頼する前の確認項目、未定の条件を残す方法、制作会社へ渡すメモ、公開前の確認を整理します。EC基盤の選定や詳細な設計は、そのメモをもとに担当者と詰めていきます。

要件整理は「売り方・運用・完成条件」をつなぐ作業
例えば「予約販売をしたい」という要望には、予約商品と通常商品を一緒に買えるか、代金をいつ受け取るか、発送時期をどう知らせるか、といった条件が含まれます。ボタンを置くだけでは、日々の受注処理まで決まりません。
まず社内で、必要な売り方と困っている作業を整理します。次に制作会社と、採用するEC基盤でできること、追加の設定や開発、代わりの運用方法を確認します。最後に、合意した機能・対象ページ・役割・確認方法を、見積書や仕様書へ結び付けます。ここまでが要件定義につながる流れです。
「できれば欲しい」と「公開時に必要」を分けることも大切です。ただし、決済や表示、購入者対応など、販売に必要な条件を、予算を下げるためだけに後回しにはしません。
発注前に確認する項目を、一つの表へまとめる
次の表は、社内の打ち合わせと初回相談に使う整理表です。全項目を確定させることより、分かっている事実と相談が必要な条件を分けることを優先します。
| 項目 | 自社で整理すること | 制作会社へ確認すること |
|---|---|---|
| 目的・購入者 | 主力商品、誰がどの場面で買うか、現在の課題 | 必要な商品情報、購入までのページと導線 |
| 商品・素材 | 商品数、色やサイズ、写真・説明文の状態、更新頻度 | 登録範囲、データ整形、撮影・原稿の分担 |
| 在庫・受注 | 在庫の管理場所、店頭販売との関係、受注担当 | 在庫連携の可否、欠品時の表示、受注確認の方法 |
| 決済・配送 | 必要な支払方法、送料、発送日、休業日、例外 | 対応可否、契約・審査、設定と確認の範囲 |
| 購入者への案内 | 発送・返品・問い合わせの窓口と条件 | 表示するページ、通知の内容、必要な素材 |
| 移行・外部連携 | 旧EC、商品・顧客・注文データ、既存URL、連携先 | 移行可能な範囲、照合、切り替えと復旧の段取り |
| 運営・引き継ぎ | 更新担当、管理者、予算と公開希望日 | 操作資料、管理権限、保守、追加改修の扱い |
商品数は「20商品」のような数字に加え、色・サイズの組み合わせも伝えます。数商品分の写真と説明文、現在使っている商品データのサンプルがあれば、登録作業を確認しやすくなります。共有する写真や文章は、自社が利用できるものを用意してください。
既存ECから移る場合は、商品だけでなく、移したいデータと残したいページを一覧にします。データを出力できても、新しいECへ同じ形で取り込めるとは限りません。旧URLへの対応と検索向け情報の引き継ぎも相談の対象に含め、移行後の順位維持まで保証されるとは扱わないようにします。
注文後の仕事を書き出すと、必要な機能が見える
購入者の画面と、運営担当者の作業を並べます。「購入できる」だけで終わらせず、誰が注文を確認し、在庫を確保し、発送と通知を行うのかまで書くと、必要な管理機能や連携を説明できます。
次の図は、布小物を販売する小さなショップを想定した、説明用の架空例です。実際の顧客の業務や、特定のEC基盤の標準機能を示すものではありません。

この例で予約販売を追加するなら、通常商品との同時購入、代金の扱い、発送時期の表示を別に検討します。制作会社には「予約販売ができるか」に加え、「自社のこの運用を、どの方法で実現できるか」を確認します。
店頭とECで同じ在庫を売る場合も、在庫が常に自動で一致するとは決めつけません。更新のタイミング、連携先、担当者の確認、売り越した場合の連絡を具体化します。手作業を残す案なら、作業の量と担当者の対応時間も判断材料になります。
未定事項には、担当と決める期限を付ける
未定の条件を消してしまうと、見積もりや納期の前提から外れます。次のように、影響と回答する人を残します。期限は自社と制作会社の進行に合わせて決めます。
| 未定の例 | 決まらないと影響すること | 担当・期限の決め方 |
|---|---|---|
| 通常商品と予約商品の同時購入 | カート、送料、決済、発送の設計 | 店長が販売方針を決定し、制作会社が実現方法を確認。仕様合意前に回答 |
| 店頭とECの在庫共有 | 連携範囲、更新作業、欠品対応 | 在庫担当が現在の管理方法を提示。連携見積もり前に確認 |
| 旧会員データの移行 | 移行作業、購入者への案内、確認期間 | 社内管理者と移行担当が対象と制約を確認。切り替え計画の合意前に決定 |
実現方法が分からない項目は、「調査・相談が必要」と書きます。見積もりでは、何を仮定した金額か、条件が変わると費用や日程がどう変わるかを確認してください。未定を、不要や無料として扱わないことが大切です。
要望が後から変わる場合も、追加・変更の内容、影響する作業、費用、日程を記録し、双方で確認します。口頭のやり取りだけで進めず、制作の基準となる資料を更新しておきます。
購入画面と管理・保守の責任も、依頼範囲へ入れる
消費者向けの通信販売では、販売条件の表示も制作の材料になります。消費者庁の通信販売ガイドラインでは、申込み段階の表示と、最終確認画面で申込み内容を容易に確認・訂正できることを説明しています。販売条件を自社の確認担当が用意し、どの画面へどう反映するかを制作会社と共有します。
送料・発送時期・返品の条件などを、商品ページと購入手続きで食い違わせないことも確認対象です。扱う商品や販売形態に応じて必要な表示を確認し、テンプレートの文面を入れただけで確認完了とはしません。
管理権限、日々の保守、障害時の連絡先も先に整理します。IPAのECサイト構築・運用セキュリティガイドラインは、自社構築サイトを中心に、構築時・運用時の対策と担当者の確認を扱っています。SaaS型ECを使う場合も、自社・EC基盤・制作会社が担当する範囲を確かめ、必要な対策を検討する材料になります。
依頼メモには、管理者、担当者ごとの操作権限、設定やデータの引き継ぎ、保守対象、相談窓口を記載します。契約・審査が必要な決済や外部サービスは、名義と手続きをする人、制作会社が支援する範囲を分けておくと進行を確認しやすくなります。

初回相談に渡す依頼メモの例
次は、図と同じ架空のショップの例です。角括弧の部分は自社の情報へ置き換え、分からない項目は未定のまま残してください。
- 目的と商品: 布小物20商品を販売。購入者は[想定する人・使う場面]。現在の課題は[店頭のみ、旧ECの更新負担など]。
- 公開時の範囲: 通常販売を優先。予約販売は将来の候補。必要な商品ページと購入手続き、送料・発送・返品の案内を相談したい。
- 運営の前提: 受注・発送は店長が担当。在庫の管理場所は[現在の方法]。店頭とECの在庫共有方法は相談が必要。
- 支給できる材料: 商品写真、説明文、色の一覧を[準備できる日]に渡す。整理や追加制作を依頼する範囲は[対象]。
- 制約と未定事項: 予算は[税込・税別、初期・継続の区分]、公開希望日は[理由も記載]。EC基盤・決済は未定。対応方法と費用への影響を提案してほしい。
- 回答してほしいこと: 作業範囲、当社に残る仕事、含まない項目、利用料、確認方法、引き継ぎ資料、保守と追加改修の扱い。
資料を作ったら、実際に受注や発送をする人にも確認してもらいます。窓口担当だけで判断せず、商品の責任者、運営担当、最終判断をする人へ確認する道筋を決めておきます。少人数なら兼任でも構いません。
Shopifyを採用候補にした後の金額照合は、Shopify構築費用の見積もり比較で、初期費用・継続費・別料金を分けて確認できます。
公開前に「何を試せば合格か」を合わせる
最後に、完成の判断を画面の印象だけにしないよう、確認するケースと結果を決めます。商品や運用に合う条件を選び、制作会社側の確認と、自社の受入確認を分けて記録します。
- 商品の色・数量を変えたとき、注文内容と在庫へ正しく反映される。
- 配送先や金額を変えたとき、合意した送料が表示される。例外地域や送料無料の境界も確認する。
- 注文確定前に、内容を確認して修正できる。決済の失敗・中断時も注文と支払状況を確認できる。
- 管理画面、購入者向け通知、担当者向け通知の内容を照合する。メールは送信処理だけでなく、確認用アドレスでの受信も確かめる。
- 運営担当者が、商品追加・価格修正・発送処理を手順に沿って行える。スマホで商品から購入確認まで表示と操作を確かめる。
テスト環境・方法はEC基盤や決済サービスに合わせて決め、実際の請求や在庫処理が起きる方法を使う場合は、金額・担当・取消方法を事前に確認します。旧ECからの移行なら、切り替え時の注文の扱い、データ照合、戻す判断と担当も必要です。
機能の確認が通ったことと、公開後の売上が伸びることは別です。公開後は、目的に合う購入・問い合わせ・運営の記録を、担当者が振り返れる形にします。最初の依頼メモにその担当と確認時期を入れておくと、制作から運営へつなげられます。
株式会社みやあじよのECサイト制作では、商品・購入導線・日々の運営を確認して、必要な仕組みと制作範囲を整理します。メモが埋まっていなくても、決まっていることと相談したいことを分けて共有してください。