ECの新規立ち上げやリニューアルは、やることが多くて途中で判断が止まりがちです。社内の意見が割れたり、見積の差が大きくて決めきれなかったりします。
先に「決める順番」をそろえるだけで、手戻りが減り、相談もしやすくなります。
ただし、補助金や特殊な基幹システム連携などが絡む場合は、追加の確認項目が増えます。
この記事では次を中心に扱います。
- 要件がぶれやすい原因と、止まりやすい場面
- 目的と売り方を、制作に落とすための決め方
- 見積を比べるときの見方と、追加費用の芽のつぶし方
ECサイト制作で要件がぶれやすい理由
理由は「サイト」だけの話ではないから
ECは、見た目やページ作りだけで終わりません。注文が入ったあとに、発送や在庫更新、問い合わせ対応が続きます。
つまり、サイトの仕様は現場の運用に直結します。ここが固まっていないと、途中で「やっぱりこうしたい」が出てきます。
よく起きるのは、次のようなズレです。
- 販売側は「売れる見せ方」を優先したい
- 現場は「ミスが起きない流れ」を優先したい
- 経営側は「投資回収の見通し」を早く持ちたい
この優先順位が混ざったまま進むと、作業が進むほど修正が大きくなります。
商品の数と売り方で、必要な作りが変わる
同じECでも、商品点数が数十なのか数千なのかで作りが変わります。定期購入があるか、ギフト対応があるかでも変わります。
これを最初に言葉にしないと、制作途中で機能が増えやすく、見積もりの前提も崩れます。
依頼側が「選択」を先送りにしやすい
制作を進めると、細かい判断が連続します。たとえば「送料は地域別か」「会員登録は必須か」「返品対応の見せ方はどうするか」などです。
この判断が後回しになるほど、制作会社は仮置きで進めるしかなくなります。結果として、後半に決め直しが集中します。
ここまでを踏まえると、最初の段階でやるべきことは一つです。
何を作るかではなく、どんな運用で売るかを先に言葉にして、優先順位を決めることです。
最初に決める「目的」と「売り方」
目的は「サイトで達成したい行動」まで落とす
目的が「売上を増やす」だけだと、判断が割れやすくなります。
ECサイト制作では、サイト上で起きてほしい行動を決めておくと、構成も機能も選びやすくなります。
たとえば次のように一段だけ具体化します。
- 新規の購入を増やしたい
- リピート購入を増やしたい
- 客単価を上げたい
- 問い合わせを減らして運用を軽くしたい
目的が決まると、トップページで推す情報、商品一覧の見せ方、購入導線の作りが変わります。
「売り方」を決めると、必要な機能が見える
売り方は、マーケティングの話だけではありません。現場の負担とセットです。
ここをそろえると、制作会社に伝える内容が急に具体的になります。
- どの商品を主力にするか
- どんな買い方が多いか(まとめ買い、単品、定期など)
- 配送のパターン(宅配、メール便、店頭受け取りなど)
- 在庫の持ち方(実店舗と共通、倉庫、受注生産など)
- 問い合わせ対応の方針(電話中心、メール中心など)
「売り方の前提」が決まっていないと、機能だけが先に増え、使いにくいサイトになりがちです。
要件整理で決める順番
ここからは、判断が前に進みやすい順に並べます。
| 順番 | 決めること | 決め方の目安 | 抜けた時の困りごと |
|---|---|---|---|
| 1 | 目的 | 起きてほしい行動を決める | 構成も機能も迷う |
| 2 | 主力商品 | 売りたい順に並べる | 訴求が散らかる |
| 3 | 売り方 | 配送と在庫の前提を言語化 | 運用が回らない |
| 4 | 優先順位 | 最低限と後回しを分ける | 見積が膨らみやすい |
| 5 | 素材の準備 | 商品写真と説明文の方針 | 公開が遅れやすい |
この順番で埋まると、制作会社が「何を基準に提案すべきか」を理解できます。次の章の見積比較も、前提がそろった状態で見られます。
費用の見積がずれる原因と、比較の軸
見積の差は「作業範囲」と「前提」の差で起きる
見積が大きく違うとき、単純に高い安いでは判断できません。
多くの場合、含まれている作業の範囲が違います。さらに、前提が曖昧だと安全側に見積もる会社も出ます。
特に差が出やすいのは次の領域です。
- 商品登録を誰がどこまでやるか
- デザインをどこまで作り込むか
- 既存データをどこまで移すか
- 公開後の保守をどこまで見るか
初期費用と月額費用は、役割が違う
初期費用は、公開までに必要な作業の対価です。月額費用は、運用を続けるための固定コストです。
両方を並べて見ないと、数か月後に「想定より出費が増えた」となりやすいです。
比較は「同じ土俵」を作ってから
制作会社ごとに提案が違うのは自然です。だからこそ、こちらが比較の軸を持つ必要があります。
たとえば「新規公開まで」「公開後の運用」「将来の拡張」の三つに分けて見ると、違いが読みやすくなります。
また、SEOは検索で見つけてもらうための工夫です。SEOに関する作業がどこまで含まれるかも、費用差の要因になりやすいです。
見積比較で見る項目一覧
迷いやすい点だけ、比較表にします。
| 項目 | 含まれやすい範囲 | 別料金の例 | 確認のしかた |
|---|---|---|---|
| デザイン | 主要ページの作成 | 作り込みや追加ページ | 対象ページ数を聞く |
| 商品登録 | 数件のサンプル | 大量登録、代行作業 | 件数と担当を決める |
| 決済設定 | 代表的な決済の設定 | 複数決済、追加審査対応 | 対応手段を列挙する |
| 送料と配送 | 基本の送料設計 | 地域別、複雑な例外 | 配送パターンを整理 |
| データ移行 | 移行方針の検討 | 履歴移行、整形作業 | 移す範囲を明記する |
| 保守と運用 | 軽微な修正の窓口 | 改善提案、更新代行 | 対応内容と回数を確認 |
この表をたたき台にすると、「何が含まれていて、何が別枠か」が見えます。結果として、見積の差が説明できる形になり、社内決裁も通しやすくなります。
体制と進め方(社内と制作会社の分担)
結局ここで止まりやすいのは、作業量より「誰が決めるか」が曖昧なことです。担当が決まらないと、制作会社からの質問に答えられず、確認待ちが積み上がります。
先に役割を分けるだけで、やり取りの回数も減り、公開までの見通しが立ちやすくなります。
最低限そろえたい役割は3つ
人数が少ない会社でも、役割は分けて考えるほうが進みます。兼任でも構いません。
- 決める人:目的、優先順位、予算、公開時期を決める
- 確認する人:原稿や写真、表記ゆれ、規約などを確認する
- 作業する人:商品登録や更新、日々の運用を担当する
この3つが同じ人でも問題ありません。ただ、制作会社が誰に聞けば判断が進むのかを把握できる状態が大事です。
制作の流れは「戻りにくい順」に押さえる
制作は、後ろに行くほど修正の影響が大きくなります。だから、戻りにくい順で固めるとラクです。
- 現状の棚卸し(商品、運用、困りごと)
- 目的と優先順位(何を先に叶えるか)
- ページ構成(どのページが必要か)
- デザイン(見せ方の方向性)
- 組み込み(購入の流れ、設定)
- テスト(買えるか、メールが届くか)
- 公開(切り替え、最終確認)
途中で迷いが出たら、いまどの段階かを確認し、前の段階に戻るかどうかを決めると混乱が減ります。
社内が用意するものは「量」より「型」が先
商品写真や説明文は、量が多いほど先延ばしになりがちです。最初から全部を完璧にそろえるより、型を決めて進めるほうが現実的です。
たとえば商品ページは、タイトル、特徴、仕様、配送、返品といった並びを先に決めます。並びが決まると、足りない情報が見え、集める作業が細かく分割できます。
打ち合わせは「決める回」と「確認する回」に分ける
毎回なんとなく話すと、結論が出ずに時間だけ使います。
決める回では、選択肢を2つか3つに絞って結論まで進めます。確認する回では、原稿やデザインの赤入れに集中します。役割を分けると、担当者の負担も読みやすくなります。
機能要件を決める(決済・配送・在庫・会員など)
機能を増やすほど便利そうに見えますが、運用の手間も増えます。ECは公開して終わりではなく、毎日回していく仕組みです。
まず「最低限で回る形」を作り、売れ筋や問い合わせの傾向を見てから足すほうが失敗しにくいです。
ここでは、カート機能という購入の仕組みに関わる代表的な要件を、優先度で分ける考え方を紹介します。
迷いやすいのは「例外」の扱い
機能要件で混乱するのは、例外が多いときです。たとえば次のような場面です。
- 冷凍と常温を同時に買ったときの送料
- ギフト包装と納品書の扱い
- 予約商品と通常商品の同梱
- 離島や海外への対応
例外は、全部に対応しようとすると設計が重くなります。まずは「一番多い注文パターン」を基準にして、例外をどこまで受けるかを決めると整理しやすくなります。
機能要件の優先度メモ
検討中の内容を、最低限・できれば・後回しに分けると、見積もりの前提がそろいます。
| 領域 | 最低限 | できれば | 後回し |
|---|---|---|---|
| 決済 | 主要な決済を用意 | 選択肢を増やす | 独自の分割払い |
| 配送 | 基本の送料と日数 | 日時指定 | 複雑な同梱ルール |
| 在庫 | 欠品を防ぐ管理 | 実店舗と連動 | 細かな自動振り分け |
| 会員 | ゲスト購入も可 | 会員向け特典 | 段階的な会員ランク |
| 販促 | 基本のクーポン | セット割 | 複雑な条件の出し分け |
| 連携 | 発送に必要な出力 | 倉庫との連携 | 基幹側まで自動化 |
この表が埋まると、「今回やる範囲」と「次に回す範囲」が言葉になります。制作会社との会話も、機能の足し算ではなく、運用の形を前提に進められます。
リスクとトラブルを避ける(移行・運用停止・責任範囲)
不安が大きいのは、公開日に売れなくなることと、データが消えることです。ここは怖がって当然で、対策も打てます。
公開前に「何が起きると困るか」を並べておくと、制作会社側も準備がしやすくなります。
データ移行は「移す範囲」と「整える作業」で決まる
移行で揉めやすいのは、移すデータの範囲が途中で増えることです。
よくあるのは、商品だけのつもりが、顧客情報や注文履歴まで必要になったケースです。さらに、古いデータの表記ゆれや重複が見つかると、整える作業が発生します。
最初に決めたいのは、この3点です。
- 何を移すか(商品、顧客、注文履歴など)
- どこまで整えるか(表記ゆれ、カテゴリ整理など)
- 誰が整えるか(社内か制作会社か)
移行の話がはっきりすると、見積もりのブレも小さくなります。
公開日は「切り替え手順」があるかで安心感が変わる
公開当日に慌てる原因は、手順が頭の中だけで進んでいることです。
切り替えの時間帯、最終確認の担当、戻す判断の条件が決まっているだけで、当日の不安が軽くなります。
制作会社に確認したいのは、次のような内容です。
- 公開の当日、どの順で切り替えるか
- どの時点で注文を受けられるか
- 想定外が起きたとき、どこで止めるか
細部まで覚える必要はありません。「手順が文面にあるか」を見るだけで違いが出ます。
責任範囲は「どこまでが制作で、どこからが運用か」
トラブルの大半は、作業の境界が曖昧なまま進むことです。
たとえば、商品登録のミス、送料設定の間違い、文章の表記ゆれは、誰が最終責任を持つのかが曖昧だと揉めやすいです。
だから、公開前に次を決めておくと安心です。
- 設定の最終確認は誰が行うか
- 公開後の軽微な修正はどこまで対応するか
- 不具合が出たときの連絡先と対応時間帯
このあたりが決まると、運用開始後に「どこに頼めばいいか」で迷いにくくなります。
成果の測り方とKPI設計(公開後の改善まで)
公開してからの動きまで見ておくと、ecサイト制作は失敗しにくくなります。見た目が整っていても、数字が伸びない、現場が回らない、といったズレが起きるからです。
KPIは成果を見るための目印となる数字で、追う数字が決まると改善の方向が定まります。
公開後の変化は3つに分けると迷いが減る
ECの成果は、売上だけで判断すると原因が見えにくいことがあります。次の3つに分けて考えると、次に直す場所が見つかりやすくなります。
- 集客の変化:見に来る人が増えたか、減ったか
- 購入の変化:見た人が買いやすい流れになったか
- 運用の変化:更新や受注対応の負担が増えていないか
たとえば集客が増えているのに売上が伸びないなら、商品ページの情報不足や購入導線の詰まりが疑えます。逆に売上が一時的に伸びても、運用が回らなければ長続きしません。
最初に決めるKPIは「少なめ」で良い
KPIを増やしすぎると、見るだけで疲れてしまいます。最初は、目的に近い数字を2つか3つに絞るほうが続きます。
- 月の売上と注文件数
- 客単価(1回あたりの購入金額)
- リピート購入の割合
これに加えて、現場の負担を見るために、問い合わせ件数や欠品の発生回数も一緒に見ておくと安心です。成果と負担を同時に見ると、無理のない改善になります。
改善は「誰が」「いつ」見るかで決まる
公開後に伸びない原因の多くは、改善の担当と頻度が決まっていないことです。更新が属人化している場合は、まず分担を決めるだけでも動き出します。
公開後の運用と担当の分担
| 作業 | 担当 | 頻度 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 売上と注文の確認 | 店長/責任者 | 毎日 | 急な落ち込みに気づく |
| 欠品と在庫の確認 | 現場担当 | 毎日 | 表示と実在庫のズレ防止 |
| 商品情報の更新 | Web担当 | 週1 | 写真と説明文の見直し |
| 企画の反映 | 担当者 | 月1 | 特集やセット提案など |
| 不具合と問合せ対応 | 窓口担当 | 都度 | 同じ質問は改善の材料 |
ここが決まると、「見たけれど忙しくて放置」が減ります。さらに、改善が小さく回り始めるので、制作費の投資判断もしやすくなります。
相談前にそろえる情報チェック(要件の書き方)
相談は、全部が決まっていなくても進みます。ただ、前提が見えるほど提案が具体化し、見積のブレも減ります。
紙一枚でもよいので、次をメモにしておくと話が早くなります。
要件メモに入れておくと助かる項目
- 目的:新規購入を増やす、リピートを増やす など
- 主力商品:まず押し出したい商品と理由
- 商品点数:概算でよいので数の目安
- 売り方:配送の形、在庫の持ち方、ギフト対応の有無
- 対象範囲:新規立ち上げか、リニューアルか
- データ移行:移したい情報の範囲(商品、顧客、履歴など)
- 優先順位:最低限と、後回しにできること
- 担当:社内で決める人、作業する人の想定
- 公開の希望時期:大まかな目安
- 予算感:上限ではなく、検討帯の目安
文章は上手に書く必要はありません。大事なのは、決まっていることと未定のことが分かる状態にすることです。未定が多いほど、先に決める順番を提案してもらいやすくなります。
「制作会社に任せる範囲」を先に書くと手戻りが減る
ECは、商品写真、説明文、規約ページなどの素材が多いです。素材が揃わないと公開が延びやすいので、担当の切り分けを早めにしておくと安心です。
- 商品写真は社内で用意するのか、撮影も依頼するのか
- 商品説明文は誰が書くのか、型を作ってもらうのか
- 商品登録は社内で行うのか、初期だけ代行するのか
この線引きがあると、見積の中身が読みやすくなり、社内の作業量も見通せます。
依頼先の選び方と、見積依頼の出し方
価格だけで決めると、公開後に困りごとが残ることがあります。ECは運用が長く続くので、相性の良い相手を選ぶほうが結果的に安定します。
比較するときは「作る力」と「回す力」の両方を見ます。
依頼先を選ぶときに見たい観点
- 似た規模のECを扱った経験があるか
- こちらの運用を聞いたうえで提案してくれるか
- 公開後の支援範囲がはっきりしているか
- 連絡や確認の進め方が、社内の体制に合うか
実績の数だけでなく、進め方が自社の現実に合うかを見ると失敗が減ります。
見積依頼は「前提」をそろえると比較しやすい
制作会社ごとに提案が違うのは自然です。そのうえで比較しやすくするには、前提だけ共有しておくのが効果的です。
- 目的と主力商品
- 商品点数と運用の流れ
- 必要なページの範囲(商品、カテゴリ、特集、FAQなど)
- 機能の優先順位(最低限と後回し)
- 移行の範囲と、公開の希望時期
- 社内で用意できる素材と、支援してほしい範囲
前提が揃うと、各社の提案の違いが見えます。逆に、前提が曖昧だと、見積の差は読み解きにくくなります。
提案書で見ておきたいのは「やらないこと」まで書かれているか
安心できる提案は、できることだけでなく、今回やらないことも言葉になっています。
たとえば「初期は最低限で回し、次の段階で拡張する」など、段階の考え方があると、費用とスケジュールの見通しが立ちます。
さらに、公開後の保守や軽微な修正の扱いが明確だと、運用開始後のストレスが減ります。ここが曖昧だと、困ったときに相談先が分からなくなりがちです。
まとめ
ecサイト制作で迷いが減るのは、機能の多さではなく、決める順番が揃ったときです。
目的と売り方を言葉にし、最低限と後回しを分けるだけで、見積の比較もしやすくなります。
さらに、公開後に見る数字と担当を決めておくと、作ったあとに伸ばす動きが現実的になります。