前提:BtoB=法人向け取引で、検討期間が長い商材を想定します。
前提:ROI=投資額に対して得られた利益の割合として扱い、制作費だけでなく運用費・人件費・ツール費も投資額に含めます。
WebサイトのROI算定が必要になる背景
BtoBでは、検討に時間がかかり、社内の意思決定者も複数になりやすいです。結果として「Webサイトが商談や受注にどれくらい効いたのか」が見えにくく、予算が毎期ゼロから議論されやすくなります。そこで役立つのがROIの考え方です。ROIを置く目的は、施策の良し悪しを断定することではありません。社内で同じ物差しを持ち、次の投資判断をしやすくすることが目的です。
BtoBでは、展示会・紹介・既存顧客からの相談など、Web以外の接点も混ざりやすいです。最後にフォームから問い合わせが入っていても、その前にサイトで事例を読んでいたり、サービスページで比較していたりします。
このとき「最後に来た経路だけ」で成果を見てしまうと、Webサイトの貢献が小さく見えがちです。反対に、フォーム経由の問い合わせをすべて「Webの成果」と考えると、他施策の貢献を見落とします。だからこそ、会社として納得できる定義と集計ルールが必要になります。
コーポレートサイト=会社の信頼や全体像を伝える公式サイトです。サービスサイト=特定のサービスを検討するための情報をまとめたサイトです。これらは広告のように短期で終わるものではなく、情報が積み上がる資産になり得ます。ただし、測れないものは議論しづらいです。問い合わせ数だけを見ても、質が伴わなければ営業の負担が増えてしまい、投資判断を誤りやすくなります。
当社では、見た目の好みよりも「目的に対する問題解決」を重視し、目的・コンセプト・ターゲットを言語化した上で、集客とUI/UXを同じ重要度で設計します。UI/UX=使いやすさと体験の設計です。この考え方は、ROI算定にもそのまま当てはまります。数字を作る前に「目的と定義」を言葉でそろえるほど、社内の合意形成が早くなります。
ROI算定のゴールを先に決める
ROI算定で最初に決めたいのは「この算定で何を判断したいのか」です。ここが曖昧だと、都合のよい数字だけを拾ってしまい、社内で信用されにくくなります。たとえば、同じROIでも判断が違えば見方が変わります。
- 新規投資の可否:これからサイトに投資してよいか、いつまでに回収したいか
- リニューアルの妥当性:現状の機会損失を減らせるか、どの指標をどれだけ改善したいか
- 改善の優先順位:複数の改善案のうち、どれから着手するか
次に決めるのが評価期間=効果を判断する集計の期間です。BtoBでは受注まで時間がかかるため、短すぎる期間で受注だけを見て結論を出すと、実態より悪く見えやすいです。一方で、1年待たないと判断できない設計だと、経営として動きにくくなります。
そこで、短期は先行指標で進捗を見て、中長期は遅行指標で回収を見る、という二段構えが現実的です。先行指標=最終成果より先に動く指標です。遅行指標=受注や粗利など、後から確定する指標です。
また、効果は売上より粗利で見るとぶれにくいです。粗利=売上から原価を引いた利益です。売上だけを見ると、原価率の違いで判断がズレやすいからです。
投資額を洗い出す
ROIが現実離れしやすい原因の一つは、投資額の捉え方が狭いことです。制作費だけを投資額にすると、社内の運用工数やツール費が見えず、実態よりROIが良く出やすくなります。経営判断に使うなら、TCO=導入後の運用費も含めた総コストで投資額を整理するほうが安全です。
投資額は「初期」と「継続」に分け、さらに「社内」と「社外」に分けると漏れが減ります。特に見落としやすいのが、原稿作成・社内確認・更新作業などの社内工数と、計測や解析の設計です。計測が弱いままだと効果が追えず、ROI算定そのものが成り立ちにくくなります。
社内工数は、精密な時給計算よりも「月に何時間使っているか(使う見込みか)」を置くほうが進めやすいです。会議、レビュー、更新、改善検討を合算し、時間×社内単価で投資額に含めます。ここを入れないと、現場負担が増えているのにROIだけ良く見える状態になり、継続投資の判断を誤りやすくなります。
フォーム=問い合わせなどを送る入力画面です。
CMS=Webページを管理・更新する仕組みです。
MA=見込み顧客への情報提供を自動化する仕組みです。
ヒートマップ=ページ上の注目されやすい場所を可視化する分析ツールです。
投資額の内訳と算定ポイント
| 費目 | 含めるもの | 算定の考え方 | 見落としがちな点 |
|---|---|---|---|
| 戦略・要件整理 | 目的/KPI整理、ターゲット設計、導線設計 | 初期費として一括、または月次で按分 | 意思決定者のレビュー工数 |
| 制作・改修 | 情報設計、デザイン、実装、フォーム | 初期費、改修は案件ごとに積み上げ | 追加改修の前提漏れ |
| コンテンツ制作 | 記事、事例、ホワイトペーパー | 1本単価×本数、または月次制作費 | 社内監修の時間 |
| 計測・解析 | タグ設定、イベント設計、レポート | 初期設定+月次運用費 | 設定漏れによる手戻り |
| SEO施策 | キーワード設計、内部改善、監視 | 月次費、または四半期で評価 | 競合や検索傾向の変化 |
| ツール費 | 解析、MA、ヒートマップ | 月額×期間で積算 | 利用人数増による課金 |
| 社内工数 | 更新、問い合わせ対応、運用会議 | 時間×社内単価で換算 | 属人化による停滞 |
| 保守・運用 | サーバ、監視、軽微更新 | 月額で固定化しやすい | セキュリティ対応の追加 |
効果をCVから受注までつなぐ
ROIで大事なのは、効果をお金に換算できる形にすることです。BtoBは受注まで時間が空くため、受注金額だけで追うとデータが少なく、判断が遅れやすいです。そこで実務では、効果を二段で考えると進めやすいです。
- 確定成果:受注粗利(受注で得られた粗利)
- 予測成果:期待粗利(受注確率を使って見積もった粗利)
期待粗利=現時点で確定していない受注を、確率で見積もった粗利です。
期待値モデル=確率と平均値で成果を見積もる考え方です。
期待粗利は、次のように分解すると、どこを改善すべきかが見えやすくなります。
期待粗利 = CV数 × 有効リード率 × 商談化率 × 受注率 × 平均粗利
CV=問い合わせ・資料請求などの成果行動です。
有効リード率=問い合わせのうち、営業が追う価値がある条件を満たす割合です。
商談化率=有効リードが商談になる割合です。
受注率=商談が受注になる割合です。
平均粗利=受注1件あたりの粗利の平均です。
たとえばCV数が増えても、有効リード率が下がると営業工数だけが増えます。逆にCV数が大きく増えなくても、有効リード率や商談化率が上がれば、ROIは改善しやすいです。
BtoBでは「サイトは見られているのに問い合わせが少ない」という状態もよくあります。このとき、問い合わせ数だけでサイトを評価すると、貢献を見落とすことがあります。営業経由で商談が進んでいても、裏側で事例やサービスページが読まれていることがあるからです。
そこで、アトリビューション=成果を複数の接点に配分して貢献を考える見方を知っておくと役立ちます。最初から高度に配分する必要はありません。「商談化した企業が、事前にどのページを見ていたか」を残せるだけでも、改善の優先順位が変わります。
CVR=アクセスに対するCVの割合です。CVRを上げたい場合も「どのCVを増やすのか」をそろえないと、ROIが歪みます。
MQL=一定の条件を満たし、マーケから営業へ渡せる見込み度が高いリードです。
SQL=営業が商談化可能と判断したリードです。
KPI設計のつなぎ方
| 段階 | KPI例 | 取得元 | 経営判断での使い方 |
|---|---|---|---|
| 認知・興味 | 自然検索流入、重要ページ閲覧数 | アクセス解析 | 需要の大きさと伸び代を見る |
| 比較検討 | 事例/料金/強みページの閲覧 | アクセス解析 | 優先して強化すべき情報を決める |
| CV | 問い合わせ数、CVR | アクセス解析+フォーム | 入口改善の効果を短期で確認する |
| MQL | 有効リード数、有効リード率 | CRM/SFA+判定ルール | 営業負荷と質のバランスを判断する |
| SQL/商談 | 商談数、商談化率 | CRM/SFA | 案件創出力と営業体制の適正を見る |
| 受注 | 受注数、受注率、受注粗利 | CRM/SFA+会計 | 回収の確度を判断する |
| 継続・追加 | 継続率、追加受注粗利 | CRM/SFA+会計 | 中長期の投資余力を作る |
ROIの算定手順
ROI算定は「計算」よりも「定義の合意」が重要です。経営判断に使える状態にするため、次の順で整えると進めやすいです。
1 成果の定義をそろえる
CVの定義、MQL/SQLの判定、受注の範囲をそろえます。
重複排除=同じ企業や担当者の複数問い合わせを1件として扱うルールです。
スパム=自動投稿などの無関係な問い合わせです。
この2つの扱いを決めておくと数字が安定します。
2 データのつなぎ方を決める
最低限「どのCVがどの商談につながったか」を追える状態を作ります。
UTMパラメータ=流入元を判別するためのURL末尾の識別子です。広告やメールなどの流入元をそろえるのに役立ちます。
営業側の入力も、同じ分類でそろえると集計が一気に楽になります。
3 増えた分で見る
増分効果=施策によって純増した成果です。
リニューアルや改善では「元から出ていた成果」と「改善で増えた成果」が混ざります。できる範囲で、改修前の同条件の期間と比べて差分を見ると判断しやすいです。
季節性=時期によって需要が変わる性質です。季節性がある業界は、前年同時期と比べると誤判定が減ります。
4 効果は粗利で集計する
効果を売上ではなく粗利で見ると、利益の観点で判断しやすくなります。粗利がすぐに取れない場合は、平均粗利率(売上に対する粗利の割合)を置いて、後で実績に合わせて更新します。
5 ROIと回収期間をセットで出す
ROI=(効果−投資額)÷投資額 です。
回収期間=投資額を回収するまでに必要な期間です。月次の粗利貢献が見えているなら、投資額÷月次粗利貢献で概算できます。ROIだけでは資金繰りや投資順序の判断がしにくいので、回収期間も一緒に出すと意思決定が進みます。
6 感度分析で幅を持たせる
感度分析=前提の数値を上下させて結果の幅を確認する方法です。商談化率や受注率は月によって動くため、単一の数字で言い切らず「低め・標準・高め」のように幅で示すと説明しやすいです。
ROIを歪める落とし穴とリスク
ROI算定がうまくいかない理由は、計算ミスよりも前提のブレが多いです。代表的な落とし穴を整理します。
- 定義が部署ごとに違う
マーケは問い合わせを成果と見ていて、営業は受注に近い案件だけを成果と見ている、というズレがあると議論が噛み合いません。有効リードの条件、商談の条件、除外条件を文章で残すと整います。 - 施策が同時進行で、何が効いたか分からない
サイト改修、広告、展示会などを同時に走らせると比較が難しくなります。「いつ何を変えたか」を記録し、比較期間をそろえるだけでも判断精度が上がります。 - 評価期間が短く、遅れて効く効果を取りこぼす
BtoBは受注まで時間がかかります。受注だけで短期判断すると過小評価になりやすいです。
コホート=同じ時期に獲得したリードを一群として追う見方です。獲得月別に商談化・受注を追うと、遅れて効く施策も評価しやすくなります。 - 投資額の漏れで良く見えすぎる
社内工数やツール費を入れないと、数字が良く出てしまい、現場が回らなくなってから崩れます。TCOでそろえておくと安全です。 - 営業入力が抜けてデータがつながらない
CRM/SFA=営業活動や顧客情報を管理する仕組みです。ここに商談ステータスや受注金額が入らないと、ROIが推測のまま止まりやすいです。入力項目を最小限に絞って運用するほうが続きます。 - 新規と既存が混ざって伸びが読めない
既存顧客は受注確度が高く、ROIを押し上げやすいです。新規開拓の投資判断をしたいなら、新規と既存を分けて集計すると判断がしやすくなります。
体制と進め方
ROI算定を回すときの詰まりどころは、ツールよりも役割分担の曖昧さになりやすいです。特にBtoBは、有効リード率や商談化率など、マーケと営業の境界の指標が重要です。ここを「誰が定義し、誰が運用し、誰が最終判断するか」をそろえると進みます。
最低限の役割は、次の分け方が分かりやすいです。
- 経営:投資目的、評価期間、投資上限の合意
- マーケ責任者:KPI定義、計測方針、改善優先順位の決定
- 営業責任者:有効リード条件、商談ステータス定義、入力ルールの設計
- Web担当者:更新運用、計測実装の窓口、レポート作成の実務
- 外部パートナー:戦略整理、SEO・コンテンツ設計、解析設計、改善実装の支援
PDCA=計画・実行・評価・改善を回す運用サイクルです。会議体は、月1回の「投資判断」と、隔週または月次の「改善定例」を分けると、議論が混ざりにくいです。投資判断では、ROI・回収期間・主要KPIの推移だけを見て、細かな改善は改善定例に回します。
ROIを高める改善ロードマップ
ROIを上げる方法は多いですが、意思決定の観点では次の2つに整理できます。
- 効果を増やす
- 投資額を抑える
BtoBの長期検討商材では、短期でCV数だけを追うより、商談に近い行動へ進みやすい導線を作り、有効リード率を落とさないことが効きやすいです。導線=ユーザーが次の行動へ進む流れの設計です。
改善は次の順で進めると手戻りが減ります。
- 計測の穴を埋める
タグ=計測のためにページに入れるコードです。イベント=クリックなどの操作を記録する計測項目です。フォーム完了や主要ボタンのクリックなど、商談に近い行動を揃えます。 - 流入を増やす前に受け皿を整える
サービス概要、強み、事例、料金、導入の流れ、よくある質問など、検討に必要な情報を先に強化します。ここが弱いと、流入だけ増えて有効リード率が下がりやすいです。 - コンテンツを意思決定に寄せる
コンテンツは検索だけでなく、営業が送って説明しやすい資料としても機能します。「初めて見た人でも、伝えたいストーリーが理解できるか」を基準に、構成を見直します。 - SEOと導線を同時に整える
SEO=検索エンジンで見つけられやすくする最適化です。SEOで流入が増えても、次に読むべきページへつながらないと成果になりにくいです。内部リンク=同じサイト内のページをつなぐリンクです。事例→サービス→問い合わせの流れを自然に作ります。 - 改善バックログで運用する
バックログ=やること候補の一覧です。影響の大きさ、実装コスト、計測できるかの3点で並べ替え、上から順に小さく検証します。A/Bテスト=2パターンを比べて効果を見る検証です。母数が十分にある場所に絞ると成果が出やすいです。
相談前に揃えるチェックリスト
外部に相談する前に、次の情報がそろっているとROI試算と改善計画が一気に具体化しやすいです。
- 目的:新規獲得を増やす、商談単価を上げる、営業工数を減らすなど
- 投資枠:初期費、月次費、社内工数の上限
- 現状データ:アクセス解析の主要指標、直近のCV数、主要流入源
- 営業データ:商談数、受注率、平均粗利、検討期間の目安
- 定義:有効リード条件、重複排除のルール、除外条件
- 制約:更新体制、承認フロー、法務チェックの有無
目的別のROI算定パターン
| 目的 | 成果の置き方 | 必要データ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 新規リードの創出 | 期待粗利をCV→商談→受注で換算 | CV数、有効リード率、商談化率、受注率、平均粗利 | 定義がぶれると数字が動きやすいです |
| 商談の質の向上 | 有効リード数、商談単価、受注粗利 | 企業属性、案件規模、受注粗利 | CV数だけ増やすと逆効果になりやすいです |
| 営業工数の削減 | 削減工数を金額換算して効果に加算 | 問い合わせ対応時間、提案工数、社内単価 | 社内単価の置き方を先に合意します |
| 指名・比較検討の強化 | 指名検索増と検討ページ閲覧を先行指標に置く | 指名流入、重要ページ閲覧、受注粗利 | 受注までの時間差を前提に評価期間を設計します |
まとめ
WebサイトのROI算定は、制作費の回収を証明するためだけの作業ではありません。次の投資判断を早くし、社内で同じ物差しを持つための仕組みづくりです。
投資額はTCOでそろえ、効果はCVから商談・受注までつなげて見ます。短期は先行指標で進捗を追い、中長期は受注粗利で回収を判断します。あわせて、計測と体制を整え、改善をバックログで回していくと、SEO・コンテンツ・導線設計・解析の取り組みが、経営の意思決定に直結しやすくなります。