外部ベンダーにWebサイト制作や運用を任せていると、「対応が遅い」「品質が安定しない」「追加費用の線引きが曖昧」といった不満が起きがちです。経営者・事業責任者の立場では、現場の努力だけに依存せず、契約と運用ルールで再現性を担保する必要があります。
ベンダーコントロール=外部委託先の成果・品質・対応を、契約と日々の運用で管理することです。
SLA=サービス水準を指標と目標値で取り決める合意文書(または契約条項)です。
本記事では、Web運用で使いやすいSLAの項目例と、要件定義から落とし込む考え方を整理します。
ベンダーコントロールとSLAの基本
なぜSLAが経営判断に効くのか
Webサイトは「作って終わり」ではなく、運用中に機会損失や信用毀損が起きます。フォーム障害で問い合わせが止まる、更新が遅れて重要情報が古いままになる、表示が遅くなって離脱が増えるなどです。SLAを整備すると、次の意思決定がしやすくなります。
- どの水準まで守るかを先に合意でき、予算と優先順位を決めやすい
- 障害時の初動や報告ラインが決まり、被害拡大を抑えやすい
- 品質を指標で評価でき、乗り換え判断の材料が揃う
SLAとKPIの違いを押さえる
KPI=目標達成度を測る指標です。売上、商談、採用応募、問い合わせ数など、事業成果に直結する指標が中心になります。
一方でSLAは、成果を生む前提条件(止めない・遅らせない・一定品質で回す)を保証するための合意です。SLAの数値を守ってもKPIが伸びない場合は、訴求や導線、集客設計など別の論点が残っていると切り分けられます。
契約とSLAの役割分担
SOW=作業範囲と成果物、前提条件を定義した文書です。SLAはSOWとセットで考えると、費用と責任のズレが減ります。
- SOW:何を作り、何を運用するか(範囲外も含める)
- SLA:運用中の品質・対応速度を、測れる指標で合意する
- 運用ルール:連絡手段、承認期限、報告フォーマットなど回し方
SLAが機能しなくなる典型パターン
SLAは「数値を書けば安心」ではありません。次の状態だと形骸化します。
- 測定方法がなく、報告が主観になる
- 例外条件がなく、休日・夜間・第三者サービス障害の扱いで揉める
- 変更管理がなく、追加改修が都度見積もりで遅延しやすい
- 依頼側の承認待ちが多いのに、遅延の責任だけがベンダーに寄る
このため、SLAは契約条項だけでなく、運用設計(会議体・連絡手段・承認フロー)とセットで作ります。
SLAが必要になる場面(リニューアル・ベンダー変更・運用不安定)
リニューアル時に起きやすい落とし穴
リニューアルは制作物の品質だけでなく、公開後の運用まで含めて成功と定義すべきです。公開直後は軽微な不具合、ページ追加、文言修正などが集中します。SLAがないと「どこまでが無償で、どこから追加か」「誰が優先度を決めるか」が曖昧になり、初動で不満が蓄積します。
ベンダー変更を検討するサイン
次のサインがある場合、SLAの再設計とベンダー評価を同時に進める価値があります。
- 一次回答や改修着手のタイミングが担当者次第
- 障害報告が遅い、または原因と再発防止が共有されない
- 納期と範囲が曖昧なまま進む
- 運用ドキュメントがなく、引き継ぎコストが膨らむ
運用が不安定なときに先に整えること
いきなり厳しいSLAを求めるとコストが跳ねます。まずは現状の事実を揃えます。
- 障害・問い合わせ・改修の履歴(いつ、誰が、どれくらいで対応したか)
- 依頼側の承認フロー(どこで止まりやすいか)
- 現行の運用範囲(保守、更新、監視、セキュリティ対応の有無)
- サイトの目的と優先順位(売上・問い合わせ・採用など)
ここまで整理すると、SLAで守るべき領域が「重要度の高い順」に見えるようになります。目的が曖昧なままSLAだけ厳格にしても、費用対効果は合いません。
SLAに盛り込む項目と目標値の例(運用・更新・障害・セキュリティ)
SLAは、全項目を高水準にするほど良いわけではありません。事業への影響が大きいところから指標化し、測定と報告が回る形にします。以下はWeb運用で使いやすい項目の例です(目標値は一例です)。
チケット=依頼と対応状況を記録して追跡できる管理票です。
重大度=障害の影響度で対応優先度を分ける区分です。
インシデント=障害や事故として扱う事象です。
| 対象領域 | 指標 | 目標値例 | 測定・報告方法 |
|---|---|---|---|
| 問い合わせ対応 | 一次回答時間 | 1営業日以内 | チケットのタイムスタンプで集計 |
| 障害対応 | 初動(一次切り分け)開始 | 受付後2時間以内(営業時間内) | 連絡記録+インシデント票 |
| 障害対応 | 復旧目標時間 | 重大度に応じて合意(例:重要は当日中) | 事後報告で原因と恒久対応を整理 |
| 更新運用 | 定型更新の反映 | 受領後3営業日以内 | 依頼テンプレと反映ログ |
| 改修 | 小改修の見積提示 | 依頼後5営業日以内 | 見積の前提条件と範囲外を明記 |
| セキュリティ | 脆弱性対応の方針 | 重大度に応じた期限を合意 | 適用内容、影響範囲、再発防止を報告 |
| バックアップ | 取得頻度と保持期間 | 例:日次取得、30日保持 | 取得ログと復元テスト結果を共有 |
目標値を決めるときのコツ
- 重大度を先に定義する:事業影響で揃えるほど、合意が早くなります。
- 依頼側の責務も明記する:素材提供、承認期限などを合意しないと、遅延要因が見えなくなります。
- 測定できない指標は置かない:測定できないと運用が回らず、感覚論に戻ります。
作り方:要件定義からSLA草案を作る手順(現状把握→合意→運用設計)
要件定義=何を実現し、何を対象外とするか、前提条件と責任分界まで合意する工程です。
運用設計=公開後の更新・保守・改善が滞りなく回るように、役割・手順・判断基準を決めることです。
手順0:窓口と意思決定者を固定し、役割を文章で残す
RACI=業務の役割を「実行責任(R)/最終責任(A)/相談先(C)/共有先(I)」で整理する枠組みです。依頼側の窓口、承認者、ベンダー側の責任者をRACIで1枚にし、承認が止まるポイントを先に潰します。SLAの数字以前に「誰が判断するか」が決まっていないと、未達の原因が不透明になります。
手順1:サイトの目的と「止めたくない業務」を先に確定する
最初に決めるのは数値ではなく優先順位です。たとえば「問い合わせフォーム」「資料ダウンロード」「採用エントリー」など、止まると機会損失が大きい導線からSLAの対象にします。ここが曖昧だと、全項目を高水準にして費用が膨らむか、逆に重要領域の水準が低いままになります。
手順2:現状の事実を棚卸しし、無理のない初期値を置く
過去の障害・改修・更新依頼を、チケットやメール履歴から「受付→一次回答→着手→完了」の時間で整理します。実績を見える化すると、現実的な目標値と、ボトルネック(承認待ち・素材不足・属人化)が分かります。草案段階は“理想の数字”より“守れる数字”を優先します。
手順3:重大度と受付時間帯を決め、エスカレーションを設計する
重大度の基準は「事業影響」で揃えると合意が速くなります。加えて、営業時間内対応なのか、夜間休日はどう扱うのかを明確にします。エスカレーション=通常ルートで解決できないときに上位の意思決定者へ引き上げる手順です。誰に・何分以内に・どの手段で連絡するかまで決めます。
手順4:測定できる指標に落とし、報告フォーマットを固定する
SLAは「測定できる」ことが前提です。一次回答時間、復旧目標時間、定型更新の反映期限など、タイムスタンプで追える指標から始めると運用が回ります。月次レポートは、件数・平均・未達理由・再発防止の4点を固定すると、改善が属人化しにくくなります。初期は試行期間を設け、運用で回る指標だけ残す判断も有効です。
手順5:例外条件と変更管理を同時に定義する
第三者サービス障害、依頼側の素材遅延、仕様変更など、SLA未達になり得る例外を先に列挙します。変更管理=仕様や優先順位の変更を、記録と承認でコントロールする仕組みです。小改修の範囲、見積提示の期限、優先度の決め方まで書くと、追加費用トラブルが減ります。
費用と投資判断:SLA水準とコストの考え方(どこにお金が乗るか)
TCO=導入後の運用費も含めた総コストです。SLAの議論では、月額だけでなく「障害で失う売上・商談・信用」との比較が重要です。
コストが増える主因は「時間帯」「体制」「監視」の3つ
- 時間帯:夜間休日を含めるほど、オンコール(待機)体制が必要になり費用が増えます
- 体制:属人化を避けるため複数人体制やシニア人材を入れると、単価は上がります
- 監視:監視・アラート設計、ログ管理、定期点検を増やすほど工数が増えます
加えて、ドキュメント整備や引き継ぎ可能な設計(手順書・設定一覧・権限管理)も、初期に一定の工数が乗ります。これは「担当者が変わった瞬間に品質が落ちる」状態を避けるための投資です。
| 水準イメージ | コスト傾向 | 期待できる効果 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 最低限:営業時間内中心 | 抑えやすい | 定型更新の遅延や認識違いを減らす | 夜間休日の障害は復旧が翌営業日になり得る |
| 標準:重要領域のみ強化 | 中程度 | フォーム等の重要導線の機会損失を抑える | 対象外領域を明確にしないと期待値が膨らむ |
| 高水準:準24/7の初動 | 上がりやすい | 重大障害の初動遅れを防ぎ、信用毀損を抑える | 例外条件や連絡網が弱いと「高いだけ」になる |
投資判断は「守る価値のある導線」に限定して最適化する
SLAをサイト全体に一律適用すると、費用対効果が崩れます。問い合わせ・採用・購買など、事業に直結する導線だけ水準を上げ、その他は標準に寄せると、投資が読みやすくなります。設計の目的は“数字を増やす”ことではなく、重要領域の機会損失を減らすことです。
効果:SLAで得られる成果と限界(事業KPIにつなぐ考え方)
得られる成果1:意思決定が速くなり、改善が回る
SLAがあると、遅延や障害の議論が「誰が悪いか」ではなく「どの指標が未達で、次に何を変えるか」に寄ります。経営側は、未達の原因が体制・範囲・優先順位のどこにあるかを把握しやすくなります。
得られる成果2:ベンダー比較と乗り換え判断が定量化できる
同じ指標でレポートを受け取れると、現ベンダーの課題と、乗り換えで改善できる余地が分かります。さらに、提案段階で「何を守る契約か」が揃うため、見積もりの比較がしやすくなります。
SLAとKPIをつなぐ簡易マップを持つ
たとえば「フォーム停止時間」は問い合わせ数や商談数の減少に直結しやすく、「定型更新の遅延」はキャンペーン機会の損失や社内工数増につながります。逆に、集客が弱い状態では稼働率を上げても成果が伸びません。SLAの指標ごとに「影響するKPI」を1つだけ紐づけておくと、投資判断が速くなります。
限界:SLAだけでは売上や問い合わせは増えない
SLAは運用品質の合意であり、事業成果そのものを保証しません。成果を伸ばすには、目的の具体化、ターゲット設計、伝える内容の整理、導線設計が別途必要です。みやあじよでは「デザインとは問題解決」であり、成果は売上・問い合わせ・採用など目的に紐づくと定義しています。
また、クライアントが「やりたいけどわからないこと」を言語化し、ページ全体のストーリーとして伝わる構成にすることが重要という考え方もあります。
SLAは、その“伝える設計”が継続して機能するための土台として位置づけると、投資判断がぶれにくくなります。
リスクとトラブル予防:ペナルティ、例外、エスカレーション、変更管理
ペナルティ=SLA未達時に、料金減額などの不利益をあらかじめ定める条項です。ペナルティは「強くするほど良い」ではなく、測定できる前提と例外条件が揃って初めて抑止力になります。
ペナルティは「SLAクレジット」で設計すると運用に載る
SLAクレジット=SLA未達時に、一定額を月額費用から控除する仕組みです。損害賠償より運用に落とし込みやすく、金額上限(キャップ=補償額の上限)も設定しやすいのが利点です。
例外条件を先に決め、境界で揉めない
最低限、次の線引きを文章化します。
- 計画停止:メンテナンス通知の期限と、対象外時間の扱い
- 第三者要因:外部サービス障害・通信障害の扱い(連絡と迂回策の範囲)
- 依頼側要因:素材未提出、承認遅延、権限不足などで遅れる場合
- 夜間休日:オンコール=夜間休日も緊急連絡に備えた待機体制を含むか
障害対応は「初動・復旧・報告」を分けて合意する
- 初動:受付後、切り分け開始までの時間
- 復旧:サービス再開までの目標(重大度別)
- 報告:原因、影響範囲、再発防止を所定フォーマットで提出
変更管理は「小改修の範囲」と「優先度」で固定する
- 小改修の定義:対象作業、月内上限、範囲外例
- 優先度の決定:事業影響を基準に、着手順と例外をルール化
ここが固まるほど、追加費用と納期の納得感が上がります。
体制:依頼側とベンダーの役割分担、会議体、レポート、改善サイクル
会議体=定例会議など、意思決定と情報共有の場を設計することです。SLAを機能させるには、数値より「回し方」を先に固定します。
依頼側が持つべき役割(最小セット)
- 事業責任:目的と優先順位を決める(問い合わせ・採用など)
- 運用責任:更新判断、素材提供、承認期限を管理する
- 技術窓口:環境・権限・セキュリティ方針を確認する(兼務でも可)
定例は「事実→判断→次アクション」で型化する
- 事実:件数、平均、未達理由(重要指標に絞る)
- 判断:優先度の見直し、SLA目標値の調整、改善テーマ採否
- 次アクション:担当・期限・完了条件
みやあじよは成果を「売上・問い合わせ・採用」など目的に紐づけ、デザインを問題解決と捉えています。この前提に立つと、SLAレポートも「数字の報告」ではなく、目的達成に必要な改善へつなげやすくなります。
レポートは「経営向け要約」と「実務向け詳細」に分ける
経営向けは重要導線の停止や重大障害など、判断に直結する指標だけに絞ります。実務向けは対応履歴と再発防止を残し、引き継ぎ可能な資産にします。
ベンダー選定・乗り換え時の評価チェックリスト(比較観点と見落とし防止)
ベンダー変更は価格だけで決めると、移行トラブルや品質低下が起きやすくなります。SLAを軸に「体制」「測定できる運用」「資産の引き継ぎ」を比較します。
| 観点 | 確認ポイント | 依頼側の準備物 | 判断の目安 |
|---|---|---|---|
| 体制 | 責任者・窓口・バックアップ体制が明確か | 社内の窓口と承認者の整理 | 担当交代でも品質が落ちにくい |
| SLA | 指標・目標値・測定方法が提示されるか | 重要導線と営業時間の定義 | 「測れるSLA」を前提に提案できる |
| 運用設計 | 定例、チケット運用、承認フローが設計されるか | 現行フローとボトルネック | 回し方まで提案に含まれる |
| セキュリティ | 更新・権限・バックアップ方針が文書化されるか | 社内ポリシーと権限一覧 | 方針と報告手順がセット |
| 資産管理 | ソース、設定、手順書の引き継ぎ範囲 | 現行の契約と納品物一覧 | 乗り換え前提でも情報が残る |
| 見積 | 範囲外、追加費用条件、前提が明記されるか | 要件の優先順位と対象外 | 比較できる内訳がある |
乗り換え時は「移行期間のSLA」を別立てで合意する
移行中は旧環境と新環境が混在し、責任分界がぶれやすい局面です。窓口、緊急連絡、作業時間帯、リリース手順だけでも短く合意すると、想定外の遅延を減らせます。
みやあじよは、クライアントの「やりたいけどわからないこと」を言語化し、初見で伝わるストーリーに落とし込むことを重視しています。
ベンダー選定でも同様に、要件と優先順位を言語化できるほど比較の精度が上がります。
まとめ
- SLAは運用品質を指標で合意し、ベンダーコントロールを再現性ある形にするための枠組み
- 重要導線から対象を絞り、重大度・例外条件・測定方法を先に固めると投資判断がぶれにくい
- ペナルティはSLAクレジット等で運用に載せ、変更管理と会議体をセットで設計すると揉めにくい
- 乗り換えや選定は、SLAを軸に体制・運用設計・資産引き継ぎを比較する
要件定義の整理、SLA草案の作成、ベンダー比較表の整備、運用設計まで一気通貫で整えると、意思決定が速くなり、移行後の運用も安定しやすくなります。
株式会社みやあじよでは、要件定義支援からWeb制作・リニューアル、PM支援、運用設計までを一貫して整理し、SLAと運用ルールを“回る形”に整備する支援を行っています。