ベンダーコントロール SLA 例の作り方

2024.08.12

外部ベンダーにWebサイト制作や運用を任せていると、「対応が遅い」「品質が安定しない」「追加費用の線引きが曖昧」といった不満が起きがちです。経営者・事業責任者の立場では、現場の努力だけに依存せず、契約と運用ルールで再現性を担保する必要があります。

ベンダーコントロール=外部委託先の成果・品質・対応を、契約と日々の運用で管理することです。
SLA=サービス水準を指標と目標値で取り決める合意文書(または契約条項)です。
本記事では、Web運用で使いやすいSLAの項目例と、要件定義から落とし込む考え方を整理します。

ベンダーコントロールとSLAの基本

なぜSLAが経営判断に効くのか

Webサイトは「作って終わり」ではなく、運用中に機会損失や信用毀損が起きます。フォーム障害で問い合わせが止まる、更新が遅れて重要情報が古いままになる、表示が遅くなって離脱が増えるなどです。SLAを整備すると、次の意思決定がしやすくなります。

  • どの水準まで守るかを先に合意でき、予算と優先順位を決めやすい
  • 障害時の初動や報告ラインが決まり、被害拡大を抑えやすい
  • 品質を指標で評価でき、乗り換え判断の材料が揃う

SLAとKPIの違いを押さえる

KPI=目標達成度を測る指標です。売上、商談、採用応募、問い合わせ数など、事業成果に直結する指標が中心になります。
一方でSLAは、成果を生む前提条件(止めない・遅らせない・一定品質で回す)を保証するための合意です。SLAの数値を守ってもKPIが伸びない場合は、訴求や導線、集客設計など別の論点が残っていると切り分けられます。

契約とSLAの役割分担

SOW=作業範囲と成果物、前提条件を定義した文書です。SLAはSOWとセットで考えると、費用と責任のズレが減ります。

  • SOW:何を作り、何を運用するか(範囲外も含める)
  • SLA:運用中の品質・対応速度を、測れる指標で合意する
  • 運用ルール:連絡手段、承認期限、報告フォーマットなど回し方

SLAが機能しなくなる典型パターン

SLAは「数値を書けば安心」ではありません。次の状態だと形骸化します。

  • 測定方法がなく、報告が主観になる
  • 例外条件がなく、休日・夜間・第三者サービス障害の扱いで揉める
  • 変更管理がなく、追加改修が都度見積もりで遅延しやすい
  • 依頼側の承認待ちが多いのに、遅延の責任だけがベンダーに寄る

このため、SLAは契約条項だけでなく、運用設計(会議体・連絡手段・承認フロー)とセットで作ります。

SLAが必要になる場面(リニューアル・ベンダー変更・運用不安定)

リニューアル時に起きやすい落とし穴

リニューアルは制作物の品質だけでなく、公開後の運用まで含めて成功と定義すべきです。公開直後は軽微な不具合、ページ追加、文言修正などが集中します。SLAがないと「どこまでが無償で、どこから追加か」「誰が優先度を決めるか」が曖昧になり、初動で不満が蓄積します。

ベンダー変更を検討するサイン

次のサインがある場合、SLAの再設計とベンダー評価を同時に進める価値があります。

  • 一次回答や改修着手のタイミングが担当者次第
  • 障害報告が遅い、または原因と再発防止が共有されない
  • 納期と範囲が曖昧なまま進む
  • 運用ドキュメントがなく、引き継ぎコストが膨らむ

運用が不安定なときに先に整えること

いきなり厳しいSLAを求めるとコストが跳ねます。まずは現状の事実を揃えます。

  • 障害・問い合わせ・改修の履歴(いつ、誰が、どれくらいで対応したか)
  • 依頼側の承認フロー(どこで止まりやすいか)
  • 現行の運用範囲(保守、更新、監視、セキュリティ対応の有無)
  • サイトの目的と優先順位(売上・問い合わせ・採用など)

ここまで整理すると、SLAで守るべき領域が「重要度の高い順」に見えるようになります。目的が曖昧なままSLAだけ厳格にしても、費用対効果は合いません。

SLAに盛り込む項目と目標値の例(運用・更新・障害・セキュリティ)

SLAは、全項目を高水準にするほど良いわけではありません。事業への影響が大きいところから指標化し、測定と報告が回る形にします。以下はWeb運用で使いやすい項目の例です(目標値は一例です)。

チケット=依頼と対応状況を記録して追跡できる管理票です。
重大度=障害の影響度で対応優先度を分ける区分です。
インシデント=障害や事故として扱う事象です。

対象領域指標目標値例測定・報告方法
問い合わせ対応一次回答時間1営業日以内チケットのタイムスタンプで集計
障害対応初動(一次切り分け)開始受付後2時間以内(営業時間内)連絡記録+インシデント票
障害対応復旧目標時間重大度に応じて合意(例:重要は当日中)事後報告で原因と恒久対応を整理
更新運用定型更新の反映受領後3営業日以内依頼テンプレと反映ログ
改修小改修の見積提示依頼後5営業日以内見積の前提条件と範囲外を明記
セキュリティ脆弱性対応の方針重大度に応じた期限を合意適用内容、影響範囲、再発防止を報告
バックアップ取得頻度と保持期間例:日次取得、30日保持取得ログと復元テスト結果を共有

目標値を決めるときのコツ

  • 重大度を先に定義する:事業影響で揃えるほど、合意が早くなります。
  • 依頼側の責務も明記する:素材提供、承認期限などを合意しないと、遅延要因が見えなくなります。
  • 測定できない指標は置かない:測定できないと運用が回らず、感覚論に戻ります。

作り方:要件定義からSLA草案を作る手順(現状把握→合意→運用設計)

要件定義=何を実現し、何を対象外とするか、前提条件と責任分界まで合意する工程です。
運用設計=公開後の更新・保守・改善が滞りなく回るように、役割・手順・判断基準を決めることです。

手順0:窓口と意思決定者を固定し、役割を文章で残す

RACI=業務の役割を「実行責任(R)/最終責任(A)/相談先(C)/共有先(I)」で整理する枠組みです。依頼側の窓口、承認者、ベンダー側の責任者をRACIで1枚にし、承認が止まるポイントを先に潰します。SLAの数字以前に「誰が判断するか」が決まっていないと、未達の原因が不透明になります。

手順1:サイトの目的と「止めたくない業務」を先に確定する

最初に決めるのは数値ではなく優先順位です。たとえば「問い合わせフォーム」「資料ダウンロード」「採用エントリー」など、止まると機会損失が大きい導線からSLAの対象にします。ここが曖昧だと、全項目を高水準にして費用が膨らむか、逆に重要領域の水準が低いままになります。

手順2:現状の事実を棚卸しし、無理のない初期値を置く

過去の障害・改修・更新依頼を、チケットやメール履歴から「受付→一次回答→着手→完了」の時間で整理します。実績を見える化すると、現実的な目標値と、ボトルネック(承認待ち・素材不足・属人化)が分かります。草案段階は“理想の数字”より“守れる数字”を優先します。

手順3:重大度と受付時間帯を決め、エスカレーションを設計する

重大度の基準は「事業影響」で揃えると合意が速くなります。加えて、営業時間内対応なのか、夜間休日はどう扱うのかを明確にします。エスカレーション=通常ルートで解決できないときに上位の意思決定者へ引き上げる手順です。誰に・何分以内に・どの手段で連絡するかまで決めます。

手順4:測定できる指標に落とし、報告フォーマットを固定する

SLAは「測定できる」ことが前提です。一次回答時間、復旧目標時間、定型更新の反映期限など、タイムスタンプで追える指標から始めると運用が回ります。月次レポートは、件数・平均・未達理由・再発防止の4点を固定すると、改善が属人化しにくくなります。初期は試行期間を設け、運用で回る指標だけ残す判断も有効です。

手順5:例外条件と変更管理を同時に定義する

第三者サービス障害、依頼側の素材遅延、仕様変更など、SLA未達になり得る例外を先に列挙します。変更管理=仕様や優先順位の変更を、記録と承認でコントロールする仕組みです。小改修の範囲、見積提示の期限、優先度の決め方まで書くと、追加費用トラブルが減ります。

費用と投資判断:SLA水準とコストの考え方(どこにお金が乗るか)

TCO=導入後の運用費も含めた総コストです。SLAの議論では、月額だけでなく「障害で失う売上・商談・信用」との比較が重要です。

コストが増える主因は「時間帯」「体制」「監視」の3つ

  • 時間帯:夜間休日を含めるほど、オンコール(待機)体制が必要になり費用が増えます
  • 体制:属人化を避けるため複数人体制やシニア人材を入れると、単価は上がります
  • 監視:監視・アラート設計、ログ管理、定期点検を増やすほど工数が増えます
    加えて、ドキュメント整備や引き継ぎ可能な設計(手順書・設定一覧・権限管理)も、初期に一定の工数が乗ります。これは「担当者が変わった瞬間に品質が落ちる」状態を避けるための投資です。
水準イメージコスト傾向期待できる効果注意点
最低限:営業時間内中心抑えやすい定型更新の遅延や認識違いを減らす夜間休日の障害は復旧が翌営業日になり得る
標準:重要領域のみ強化中程度フォーム等の重要導線の機会損失を抑える対象外領域を明確にしないと期待値が膨らむ
高水準:準24/7の初動上がりやすい重大障害の初動遅れを防ぎ、信用毀損を抑える例外条件や連絡網が弱いと「高いだけ」になる

投資判断は「守る価値のある導線」に限定して最適化する

SLAをサイト全体に一律適用すると、費用対効果が崩れます。問い合わせ・採用・購買など、事業に直結する導線だけ水準を上げ、その他は標準に寄せると、投資が読みやすくなります。設計の目的は“数字を増やす”ことではなく、重要領域の機会損失を減らすことです。

効果:SLAで得られる成果と限界(事業KPIにつなぐ考え方)

得られる成果1:意思決定が速くなり、改善が回る

SLAがあると、遅延や障害の議論が「誰が悪いか」ではなく「どの指標が未達で、次に何を変えるか」に寄ります。経営側は、未達の原因が体制・範囲・優先順位のどこにあるかを把握しやすくなります。

得られる成果2:ベンダー比較と乗り換え判断が定量化できる

同じ指標でレポートを受け取れると、現ベンダーの課題と、乗り換えで改善できる余地が分かります。さらに、提案段階で「何を守る契約か」が揃うため、見積もりの比較がしやすくなります。

SLAとKPIをつなぐ簡易マップを持つ

たとえば「フォーム停止時間」は問い合わせ数や商談数の減少に直結しやすく、「定型更新の遅延」はキャンペーン機会の損失や社内工数増につながります。逆に、集客が弱い状態では稼働率を上げても成果が伸びません。SLAの指標ごとに「影響するKPI」を1つだけ紐づけておくと、投資判断が速くなります。

限界:SLAだけでは売上や問い合わせは増えない

SLAは運用品質の合意であり、事業成果そのものを保証しません。成果を伸ばすには、目的の具体化、ターゲット設計、伝える内容の整理、導線設計が別途必要です。みやあじよでは「デザインとは問題解決」であり、成果は売上・問い合わせ・採用など目的に紐づくと定義しています。
また、クライアントが「やりたいけどわからないこと」を言語化し、ページ全体のストーリーとして伝わる構成にすることが重要という考え方もあります。
SLAは、その“伝える設計”が継続して機能するための土台として位置づけると、投資判断がぶれにくくなります。

リスクとトラブル予防:ペナルティ、例外、エスカレーション、変更管理

ペナルティ=SLA未達時に、料金減額などの不利益をあらかじめ定める条項です。ペナルティは「強くするほど良い」ではなく、測定できる前提と例外条件が揃って初めて抑止力になります。

ペナルティは「SLAクレジット」で設計すると運用に載る

SLAクレジット=SLA未達時に、一定額を月額費用から控除する仕組みです。損害賠償より運用に落とし込みやすく、金額上限(キャップ=補償額の上限)も設定しやすいのが利点です。

例外条件を先に決め、境界で揉めない

最低限、次の線引きを文章化します。

  • 計画停止:メンテナンス通知の期限と、対象外時間の扱い
  • 第三者要因:外部サービス障害・通信障害の扱い(連絡と迂回策の範囲)
  • 依頼側要因:素材未提出、承認遅延、権限不足などで遅れる場合
  • 夜間休日:オンコール=夜間休日も緊急連絡に備えた待機体制を含むか

障害対応は「初動・復旧・報告」を分けて合意する

  • 初動:受付後、切り分け開始までの時間
  • 復旧:サービス再開までの目標(重大度別)
  • 報告:原因、影響範囲、再発防止を所定フォーマットで提出

変更管理は「小改修の範囲」と「優先度」で固定する

  • 小改修の定義:対象作業、月内上限、範囲外例
  • 優先度の決定:事業影響を基準に、着手順と例外をルール化
    ここが固まるほど、追加費用と納期の納得感が上がります。

体制:依頼側とベンダーの役割分担、会議体、レポート、改善サイクル

会議体=定例会議など、意思決定と情報共有の場を設計することです。SLAを機能させるには、数値より「回し方」を先に固定します。

依頼側が持つべき役割(最小セット)

  • 事業責任:目的と優先順位を決める(問い合わせ・採用など)
  • 運用責任:更新判断、素材提供、承認期限を管理する
  • 技術窓口:環境・権限・セキュリティ方針を確認する(兼務でも可)

定例は「事実→判断→次アクション」で型化する

  • 事実:件数、平均、未達理由(重要指標に絞る)
  • 判断:優先度の見直し、SLA目標値の調整、改善テーマ採否
  • 次アクション:担当・期限・完了条件
    みやあじよは成果を「売上・問い合わせ・採用」など目的に紐づけ、デザインを問題解決と捉えています。この前提に立つと、SLAレポートも「数字の報告」ではなく、目的達成に必要な改善へつなげやすくなります。

レポートは「経営向け要約」と「実務向け詳細」に分ける

経営向けは重要導線の停止や重大障害など、判断に直結する指標だけに絞ります。実務向けは対応履歴と再発防止を残し、引き継ぎ可能な資産にします。

ベンダー選定・乗り換え時の評価チェックリスト(比較観点と見落とし防止)

ベンダー変更は価格だけで決めると、移行トラブルや品質低下が起きやすくなります。SLAを軸に「体制」「測定できる運用」「資産の引き継ぎ」を比較します。

観点確認ポイント依頼側の準備物判断の目安
体制責任者・窓口・バックアップ体制が明確か社内の窓口と承認者の整理担当交代でも品質が落ちにくい
SLA指標・目標値・測定方法が提示されるか重要導線と営業時間の定義「測れるSLA」を前提に提案できる
運用設計定例、チケット運用、承認フローが設計されるか現行フローとボトルネック回し方まで提案に含まれる
セキュリティ更新・権限・バックアップ方針が文書化されるか社内ポリシーと権限一覧方針と報告手順がセット
資産管理ソース、設定、手順書の引き継ぎ範囲現行の契約と納品物一覧乗り換え前提でも情報が残る
見積範囲外、追加費用条件、前提が明記されるか要件の優先順位と対象外比較できる内訳がある

乗り換え時は「移行期間のSLA」を別立てで合意する

移行中は旧環境と新環境が混在し、責任分界がぶれやすい局面です。窓口、緊急連絡、作業時間帯、リリース手順だけでも短く合意すると、想定外の遅延を減らせます。

みやあじよは、クライアントの「やりたいけどわからないこと」を言語化し、初見で伝わるストーリーに落とし込むことを重視しています。
ベンダー選定でも同様に、要件と優先順位を言語化できるほど比較の精度が上がります。

まとめ

  • SLAは運用品質を指標で合意し、ベンダーコントロールを再現性ある形にするための枠組み
  • 重要導線から対象を絞り、重大度・例外条件・測定方法を先に固めると投資判断がぶれにくい
  • ペナルティはSLAクレジット等で運用に載せ、変更管理と会議体をセットで設計すると揉めにくい
  • 乗り換えや選定は、SLAを軸に体制・運用設計・資産引き継ぎを比較する

要件定義の整理、SLA草案の作成、ベンダー比較表の整備、運用設計まで一気通貫で整えると、意思決定が速くなり、移行後の運用も安定しやすくなります。

株式会社みやあじよでは、要件定義支援からWeb制作・リニューアル、PM支援、運用設計までを一貫して整理し、SLAと運用ルールを“回る形”に整備する支援を行っています。

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